床屋の満足ではなくおもてなしの心で - おもてなしの経営学

おもてなしはビジネスでも基本です。


おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由
中島 聡

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)


WindowsIE の開発に携わった、ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズと肩を並べられる日本人である中島聡さん。彼のblog "Life is beautiful"と月間アスキーでの連載をまとめ、さらに西村博之さん、古川享さん、梅田望夫さんというIT を語るには外せない大御所3人との対談を収録した1冊。


アップルとソニーの明暗を分けたのは「おもてなし」だというのが、この本のメインテーマと言えるでしょう。それを一番よく表しているのが次の表現。

この、「いまどきパソコンぐらい使いこなせない人が悪い」という発想が私には許せないのだ。
(中略)
逆に「普通の人が使えないようなパソコンを作っているほうが悪い」と考えるべきなのである。
(p.15)


これって、パソコンだけにかぎらず、全てのことにおいて当てはまる気がします。作り手と使い手の関係だと、作りやすいように作る、とか、作りたいように作る、ではなく、使う人が使いやすいように作るのが「おもてなし」でしょう。売り手と買い手の関係でも、売り手の論理で売りやすいように商品配置を考えるのではなく、買い手が買いやすいように商品を並べるのが「おもてなし」とも言えるでしょう。


その「おもてなし」ができていない状態を筆者は「床屋の満足」と言い回しで表現しています。

これは、「本来顧客の満足を最優先すべき商売もしくはもの作りをしている人が、自分の満足を優先して行動してしまうこと」を意味する。
(中略)
しかし、ほとんどの床屋がそのリクエストを無視して、「いかにも床屋に行ってきました」という髪型にしてしまうらしい。彼は、床屋さんにとっては、お客を「いかにも床屋に行ってきました」というさっぱりとした髪型で店から送り出すことが仕事の充実感・満足感を与えるとても大切な要素となっている
(p.33)


先日のエントリで取り上げた佐藤義典さんの「ドリルを売るには穴を売れ」に以下のような表現がありました。

マーケティングは会議室で起きているんじゃないんだ!
(p.100)

ドリルを売るには穴を売れ


これはまさに「床屋の満足」にも当てはまる表現だと思います。ある一つの視点からしか物事を見ないとまず本質はつかめません。床屋の視点、技術者の視点では、会議室の机上の視点では、おもてなしを受ける側の視点が欠落しているのです。そこに、顧客の視点、ユーザーの視点、現場の視点が入って初めて、おもてなしを受ける側が何を考えて、何を求めているかを理解することができるのです。


床屋の満足のように、作る側の自己満足に終わらないようなものづくりをしていきたいものです。