相手を知るという初動に時間をかける - 明日の広告

モテるためには、まず相手のことをよく知ろう。


明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法
佐藤 尚之


スラムダンク一億冊キャンペーンをしくんだ筆者が変化する広告をわかりやすく書いた本。

よく使われる比喩ではあるが、ボクは、広告は消費者へのラブレターだと考えている。
(p.22)

とあるように、前半部分では、広告をモテに見立てて、モテなくなった広告をどうモテにするかについて書いています。一昔前は簡単に受け取ってもらえたラブレター。賢くなった消費者には簡単に受け取ってもらえなくなってきています。そんな今、どうするべきかという疑問への答えとして筆者の以下のようにおっしゃっています。

伝えたい相手をもっとよく見ることだ。
(p.118)

そう、いままでさんざん「伝えたい相手」と書いてきたが、それは実は送り手本位の発想法。消費者本位にスタンスをひっくり返して「伝えてもらいたがっている人」をリアルに想像してみるのである。
(p.122)


モテるため考え方を述べた後、後半部分ではそれを実践した経験を語ってくれています。そう、スラムダンク一億冊キャンペーンです。この本の中で一番興奮したのはこの部分。昨日のエントリでも書いた「自分の経験、体験を言葉にのせたときの伝わりやすさ」をここでも実感しましたね。


筆者は、このキャンペーンから学んだことの一つとして以下のことを挙げています。

  • 初動に時間をかけることの大切さ

もうしつこいくらいに書いてきていることだが、結局これが一番大切だな、とわかったのもこのキャンペーンの後であった。伝えたい相手はどんな人たちなのか。これが決まらないと表現はもちろんメディアも決まらない。でも実際には短いスケジュールの仕事が多く、この辺はなし崩しにされがちである。悲しいことだ。
(p.166)


筆者の経験、体験が伴ったこの言葉には重みがあります。前半部分だけであれば、そこまで心に響かなかったかもしれないこの内容も、後半部分を読むことで心に深く刻むことができました。


この「伝えたい相手を知る」という行為。先日のエントリで書いた中田英寿さんの行動にも共通点を見出すことができます。彼にはは自分が知らないことがいっぱいあると思い、世界へ旅立った。そんな彼の「伝えたい相手」とは、世界中の人々なのでしょう。世界中の人々のために彼にしかできない何かをしたい、伝えたい。そのために、その伝えたい相手を知ろうと世界中を旅しているのだと思います。


最後に、筆者がコミュニケーション・デザインの基本のほとんどすべてが入っていると言っている言葉を引用します。重要なのはこれなのですね。

君が人を好きになった時に取るべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分が思っていたよりも単純ではないことに気づく。極端なことを言えば、君はその人のことを実は何も知っていなかったのを思い知る。
『映画篇』金城一紀著/集英社
(p.119)